上達の指南

河野臨天元の「タイトルへの道」

(1)悔しさ糧に挑戦権獲得

(寄稿連載 2006/02/13読売新聞掲載)

 ◆第31期天元戦挑戦者決定戦 (白・河野臨七段 黒・今村俊也九段)

 こんにちは、河野臨です。昨年の暮れ、私はおかげさまで天元位を獲得することができました。そこで今週から4回にわたって、天元戦の足取りを振り返ってみたいと思います。今週は、初のタイトル戦出場を決めた、今村俊也九段との挑戦者決定戦をご覧いただきましょう。

 【テーマ図】 私の白番ですが、黒が1と押さえ込んだ時に白2とカドに打った手が、皆さんの参考になるのではないでしょうか。プロが「いかに形にこだわって碁を打っているか」という例です。
 ただし白としては2の前に白Aと黒Bを換わっておくべきでした。その理由は後でお話しするとして、まず、この白2の意図を説明します。

 【1図】 黒1の押さえに白2とハネ出し、その時に黒3と切る手が「空き三角」の愚形になるという一点に尽きます。続いて白a、黒b、白cという進行が予想されますが、この時に▲はdにあるべき形です。

 【2図】 従って実戦では黒1とツケて、左辺を渡ってきました。これが当然とはいえ的確な応手で、黒13まで地を稼がれ、白ははっきりと形勢を損じてしまいました。これがテーマ図で白A、黒Bを換わっておくべきだった、と言った理由です。それなら白2のカドの厳しさが大いに増していたのでした。
 ですが幸いにも、こののち逆転することができ、際どく半目勝ちで挑戦権を得ることができたのでした。

 実は2年前の天元戦でも挑戦者決定戦まで勝ち上がったのですが、山下敬吾さんに負けて挑戦権を逃していました。その時はもう、本当に悔しくて「人生、終わった……」と思ってしまうくらい落ち込んだものです。
 その悔しさをようやく晴らすことができた、このたびの挑戦権獲得でした。

●メモ● 1981年1月7日生まれ。25歳。小林光一九段門下。96年入段、04年JAL新鋭早碁戦優勝。05年の天元戦で山下敬吾天元を3勝2敗で下して初のタイトルを獲得。これにより八段に昇段した。

【テーマ図】
【1図】
【2図】