上達の指南

武宮正樹九段の「夢広がる宇宙流」

(2)攻勢かけながら広げる

(寄稿連載 2007/10/15読売新聞掲載)

 ◆第20期名人戦第5局 (白)名人・小林光一 (黒)九段・武宮正樹

 大模様の碁は、模様を築く過程及び築いた後の相手の侵入に対する攻勢は、ある程度力がないと打てません。そして最も重要なことは、碁盤全体を見る大局観です。全体のバランス、形勢判断を見る感性がないと、大模様の構築は難しいのです。今回は、手厚く攻勢を掛けながら大模様を築いた例で、小林光一さんとの1局です。

 【テーマ図】 私の黒番で、黒17の二間高ガカリから19と左辺の星に開いたところです。ここで白が20と構えたので、黒21、23と押し右辺一帯に模様が出来かかりました。

 【1図】 テーマ図の黒21を嫌って白20で、白1から3とハネて頭を出してくれば、黒4の二段バネがよい手です。黒6のツギになると、右辺一帯が模様というよりは確定地に近くなってきます。
 また、白は黒Aの切りに備えなければならず、白1、3の進出は得策ではないのです。

 【2図】 テーマ図の白24の打ち込みを迎え、ここからの攻め具合が大模様に直結するのです。黒は25と飛びました。これでは、黒1とつめる方が厳しい攻めに見えますが、白2、4のツケ切りが心配でした。通常なら、黒5のアテから7とついで、左辺の白1子を取り込んで十分でしょう。
 しかし白8から10の押しで厚くなると、必然的に右辺一帯の模様が消えてきます。大模様の碁は、局部での得失よりも、冒頭で述べたように、碁盤全体を見る大局観が重要なのです。

 【3図】 テーマ図の白26に、黒27と攻勢を掛けたのが、本局のポイントでした。これでは、普通に黒1の一間の受けで、何の問題もなさそうですが、白2、4から6、8と飛ばれ、これでは自然に右方にナダレ込まれて、せっかくの大模様が台無しです。

●メモ● 武宮九段は、昨年から社交ダンスを始めた。初めのころは週2回程度であったが、今では日曜日以外は通うほどの凝りようで、中級の腕前。ダンスのお陰で、体調すこぶるよく「メタボリック解消にいいです」。

【テーマ図】
【1図】
【2図】

【3図】