岡目八目

坂田鐵枝さん

坂田鐵枝さん

(1)初対面で受けた孤独感

(寄稿連載 / 2011.07.26読売新聞掲載)

 ◇さかた・てつえ

 夫、坂田栄男は昨年10月、大動脈瘤(りゅう)の破裂で90歳の生涯を閉じました。振り返ってみれば、「カミソリ坂田」と私は、50年の長きにわたって連れ添ってきたことになります。

 出会いは私が23歳で、坂田が41歳。昭和36年(1961年)のことです。知人の紹介でした。

 銀座のパーラーで初めて会ったのですが、第一印象が忘れられません。「なんて陰りの強い人だろう」と思ったのです。

 うなじから、見たこともないような強い孤独感がにじみ出ていて、私はそれまで、こんなタイプの人と出会ったことがありませんでした。

 そして昼間だというのにビールを飲む。私は「なんて人なんだろう!」とびっくりしてしまったのですが、その一方で言葉の端々から、18歳も年下の小娘である私を思いやってくれる心遣いを感じました。なので見た目とは違って「本当は優しい人なんだろうな」とも思ったものです。この時点で、私の方が完全にひかれてしまったということですね。

 坂田のこの孤独感が何に由来していたのかと考えますと、やはり碁から来ていたのでしょうね。

 碁は一対一で打つものですから、どこにも責任転嫁することができません。そういう張り詰めた時間を過ごしていたことが、孤独の原因だったのだと思います。それも他の棋士の誰よりも強く――。本当に、ゾッとするような孤独感でしたよ。

 そして対局の日が近づくにつれて、坂田の孤独感が、私にとっては「恐怖感」へと姿を変えてくるのです。

(坂田栄男二十三世本因坊夫人)