上達の指南
(上)バランス感覚 プロも感心
(寄稿連載 2017/06/06読売新聞掲載) 中国の烏鎮で5月23~27日、囲碁の人工知能(AI)「アルファ碁」が、中国のトップ棋士・柯潔九段と三番勝負を行い、3連勝をおさめた。このシリーズ、アルファ碁はどんな碁を打ったのだろうか。河野臨九段に印象に残った場面を解説してもらった。(編集委員 田中聡)
昨年3月、韓国の李世ᓿ九段を4勝1敗で下し、世界を驚かせたアルファ碁。昨年末から今年初めにかけて「マスター」を名乗ってインターネットの対局サイトで日中韓のトップ棋士を相手に60連勝した。それに続く実力発揮の場が、この三番勝負だった。
アルファ碁の特徴は、「バランスの良さと優れた大局観」と河野九段。「自然な手の連続でいつの間にか有利になっています」とも話す。1局目でそれが表れたのが「実戦の進行」だ。左上隅で白のアルファ碁が4子を捨てて実利を取った後、柯潔九段が最大の大場・下辺に▲と打ち込んだ場面。白は1とのぞいた。
「2と打つか、白5のところを継ぐか、様子を聞いたんですね。驚かされたのが白5と切った手です」
ここを切断しても、左辺に何か手段があるわけではない。いわば、後手でダメを切る手である。黒はここを放置して、6~16まで左下隅を荒らした。
「柯潔さんも意表をつかれたようですね」と河野九段はいう。
ところが白19と挟まれてみると、手広い局面になっている。5と切ったことで周囲に様々な効きができ、黒の打つ手が何となく制限されているのだ。例えば19の後、黒イと下辺の2子を逃げ出すと、白はロとかける。2の右の切り味もあり、黒はいろいろとうっとうしい。
「結果的には立派な一着。こういう『無形の財産』を作る手がとてもうまい」
実際、イでは自信が持てなかったのか、柯潔九段はAとつけてサバキに出た。
ちなみに、実戦の進行の白1とのぞいた時に、5の方に継ぐとどうなるか。
「参考図の2と打って、下辺の地を大切にするのでしょう」と河野九段。「そう考えると、どちらにしても直接的な手段はないのだから、参考図の黒1でイと滑って、実利で先行する方がよかったかも」
ヨセで柯潔九段が追い上げて最終的には僅差になったこの碁、とはいえ逆転できそうな場面は見当たらなかった。アルファ碁の強さが目立った。
●メモ● アルファ碁は、米グーグル社の傘下の英ディープマインド社が開発している囲碁AI。その実力は、中国の「絶芸」、日本の「DeepZenGo」以上と言われる“世界一の囲碁AI”だ。柯潔九段は中国浙江省出身。19歳だが数々の世界戦で優勝している“人類ナンバー1”の棋士である。
白 アルファ碁
黒 九段 柯潔