上達の指南

人工知能(AI)の碁 アルファ碁VS柯潔九段

(下)スケール大きな打ち方

(寄稿連載 2017/06/20読売新聞掲載)

 アルファ碁と柯潔九段の三番勝負は、人工知能(AI)の2連勝で3局目を迎えた。5月27日、アルファ碁の黒番で打たれたこの碁で、解説の河野臨九段が「印象に残った」のが、左下隅の折衝だという。

 右上、右下、と柯潔九段が趣向を凝らしたが、形勢が白に傾いているとはいえない。黒は▲と下がり、下辺白2子を大きく攻めようとしている。「実戦の進行」は、そういう局面だ。
 「白1と利かしにいったところで、黒2と左下隅の三々に入ったのが、的確なカウンターパンチ。白は打ちように困りました」
 右下には符号順に白イ、黒ロから白トまでとなる白の生きが残っている。それを横目に、白がどう2子を動けばいいかがポイント。

 「参考図1の1とすれば普通ですが、黒2とボウシされると、いかにも窮屈な形」と河野九段。「白イ、黒ロが利けば、白はハの大々ゲイマまで飛べそう。だいぶ攻めは緩和されます」
 そのねらいを砕いた三々入り。何がどう困ったのか――。

 白の理想図は参考図2。△と1が利いた後であれば、三々入りにはこう1子を捨てて受ける。ところが、実戦図のように白1に手を抜いて三々に入られると、同様に進んで白が15の手で17とはね、黒が15に切ったら、白1が切れないところをのぞいたダメの手になる。
 「この一手の差は大きいですからね。白は1子を捨てられなかった」
 実戦と参考図2では、隅の地の損得は明白だが、白は1の顔を立てるためにも、こう打った。その前に実戦では、白3、黒4、白5と出切り、黒を分断して戦いを仕掛けていった。これもカウンターで一本取られた、という意識からだ。しかし、黒20とかけられてみると、むしろ黒ペースにみえる。

 「柯潔九段の仕掛けを、悠然と無理のない手で受け止めている。反撃も見事。視野の広い、スケールの大きい打ち方ですね」
 この碁も黒の中押し勝ち。3連勝をおさめたアルファ碁はどれくらい強いのか。「昨年、李世?九段と打った時よりも明らかに上」と河野九段はいう。「下手すれば、プロ棋士が2子以上置かなければいけない」
 わずか1年間で見えた明らかな進化。AIの碁はまだまだ強くなりつつある。

●メモ● アルファ碁が柯潔九段に3連勝した後、英ディープマインド社は、「人間と対局するのはこれが最後」とし、アルファ碁同士で対局した50局の棋譜を公開した。実質的な“引退宣言”と捉えられているが、実際はどうなのか。今後の動きが注目される。

白 九段 柯潔
黒 アルファ碁

【実践の進行】
【参考図1】
【参考図2】