上達の指南

人工知能(AI)の碁 アルファ碁VS柯潔九段

(中)接近戦の弱さも克服

(寄稿連載 2017/06/13読売新聞掲載)

 中国・烏鎮で5月25日に行われたアルファ碁VS柯潔九段第2局は、1局目とはうってかわって、ねじり合いに。155手までで、黒番アルファ碁の中押し勝ち。印象的だったのは「右上隅の分かれ」と河野臨九段はいう。

 白の星に黒がケイマにかかり、コゲイマ受けの後、黒が星につけて二段バネしていったのが、「実戦の進行」の局面。▲と押し上げたとき、白1ののぞきが、「いかにも打ってみたくなる手」と河野九段。
 素直に継ぐのは参考図1。白2と上辺を挟まれると、「やや黒が利かされで、悔しい」のだ。「黒3には白4がぴったり」
 利かされを嫌って、黒は4子捨てを含みにしてイとかける手もある。だが、白ロとはったときが問題。1と継げば白は黒3のところを跳ね上げ、黒は勢いハと開く。「白ニと当てられるとやはり黒がイヤな形……が、これまでの常識」とも。
 アルファ碁は白がはった瞬間に実戦の進行の黒4と隅に切りを入れ、白5と取らせて、黒6と飛んだ。

 「見たことがない進行ですが、『なるほど』と思いました」
 飛びでなく参考図2の1と伸びると、白はもう1本はって白4と隅の4子を取る。「黒からのイもロも先手になりません。この取り方なら、白よしでしょう」と河野九段。
 実戦の進行では、黒6に白7と出ても黒8、白9が利き、さらに黒ハ、白ニの利きもあるため、ここが突破できない。その結果、白イの切りには黒ロのおさえが先手で参考図2とは一手違う。「この捨て方だと黒は満足できます」
 とはいえ、黒8と白9の交換は実際問題としてかなりの損。だから、白も実戦の進行で不満はない。白がイと切って4子を取るか、黒が3子を制するかの差は大きいが、後手でもありヨセの手である。白は手を抜いて足早にAと大場に先行した。「新型の誕生といってもいいでしょう」と河野九段。「アルファ碁らしい華麗な打ち方。互角だと思います」

 この碁は柯潔九段も実力を十分に発揮したが、コウ含みの乱戦の中、アルファ碁が抜け出した。昨年3月の李世乭九段戦では「接近戦に弱さが」と言われたアルファ碁だが、その弱点もどうやら克服したようだ。

●メモ● 解説をお願いした河野臨九段は東京都出身の36歳。小林光一名誉棋聖の門下で、1996年に入段。これまで天元(3期)など、タイトル九つを獲得している。昨年から今年にかけては、阿含・桐山杯全日本早碁オープンで優勝、井山裕太棋聖にも挑戦した。詰碁の名手としても知られている。

白 九段 柯潔
黒 アルファ碁

【実践の進行】
【参考図1】
【参考図2】