上達の指南
(4)目標「世界の超一流と対戦」
(寄稿連載 2006/03/06読売新聞掲載)◆第31期天元戦 第5局 (白・河野臨七段 黒・山下敬吾天元)
2勝1敗と王手を掛けて臨んだ第4局で完敗。多少ガックリはきたものの、初戦に負けた時と同様、やはりすぐに次の碁のことを考えることができました。第5局との間隔が中4日しかなかったことも、余計なことを考えずに済んだ一因だったでしょう。
【テーマ図】 握り直して私の白番。左下で新型ができましたが、白1の掛けが絶好で「悪くない」と思っていました。ここで山下さんは黒2から4と肩を突いてきたのですが、この黒4には誤算があったようです。というのも白5から13とハネ出された時に、黒は強く戦えないのです。
【1図】 山下さんは局後、当初はテーマ図の黒12では黒1とこちらを継ぐつもりだったのだが、と語っていました。確かにこちらの継ぎでは白2から6と切られ、黒aのシチョウも成立しませんから、黒の苦戦は避けられないでしょう。なので山下さんはテーマ図の黒12と継いだのでした。
【2図】 その後は、白12までの進行となりました。黒2子を取り込み左下から下辺にかけて30目を超える白地を確定させては「優勢」と感じました。このリードを最後まで保つことができ、天元位を獲得することができたのでした。
天元となったことはとてもうれしいことですし、それに伴う達成感もあります。しかし今は「大舞台で山下さんと五番勝負を打てた」という充実感を、より大きく感じています。ずっと、こうした大勝負を打ちたいと願ってきたわけで、それがかなうとともに結果がついてきたことを、今は素直に喜びたいと思います。
ですが今後は、タイトル保持者としての責任も果たさなければなりません。国内棋戦ではリーグ入りしたいと思いますし、国際棋戦でも結果を残したい。実は私はまだ李昌鎬(イチャンホ)、李世ドル(イセドル)、崔哲瀚(チェチョルハン)といった世界の超一流と対戦したことがないので、彼らと対戦することを目標に頑張りたいと考えています。(おわり)
●メモ● 国際棋戦における日本棋士の本戦シード権は、タイトル保持者の序列上位から与えられる。棋聖、名人、本因坊、十段に続く天元の保持者である河野の出場は、実に微妙であると言えるだろう。