上達の指南
(1)一見常識外「のび押さえ」
(寄稿連載 2006/12/11読売新聞掲載) ◆天元戦予選 (白)柳 時熏九段 (黒)林 漢傑六段
今年も幾多の名勝負とともに、新手、新型が誕生しました。今週から、今年打たれた新手の中で印象に残ったものを紹介しましょう。
最近の新手を一言でいうなら「なんでもあり」「目まぐるしく変わる」という感じです。中国、韓国では部分的な研究を徹底的にやりますので、その影響もあり、あらゆる手が研究されているのです。
【テーマ図】 黒が3から5と押さえました。多分、記録付きの碁では初めてです。
「押してもダメなら引いてみな……」というのがありますが、碁では、押したり引いたりの中途半端はよくないことが多いものです。従って、黒3引きから5の押さえは、一見常識外れとも見えますが、それなりの理由があります。
【1図】 今までは直接黒1と押さえ、白2から6に黒7と伸び、白8となりました。しかし、白8と開かせるのが面白くない、との発想からテーマ図が生まれたのです。テーマ図の黒1から3と引いていれば、中央の抵抗力があるのです。
【2図】 白が1と曲げても黒は中央の抵抗力があるので、黒2へ先着できるのです。従って、白1では2に開くのですが、これなら後に黒1の押しが利き、テーマ図とは大差です。
【3図】 ところが、従来の形ですと、白の曲げに、黒1と大ゲイマに先着すると、中央の抵抗力がないので、白2とタタかれて、黒いけません。
【参考図】 冒頭で、「目まぐるしく……」といいましたが、その好例が名人戦挑戦手合(白・張栩名人―黒・高尾紳路本因坊)でも打たれた白1以下7です。この後、黒Aのかけつぎがよい、とされていました。しかし黒Bのツギの方がよいと修正され、最新では黒Aがよいと再修正。高尾さんも黒Aと打っています。
●メモ● 大矢九段は1966年3月、東京都生まれ。小林光一九段門下。1975年日本棋院院生となり、80年入段、2001年九段。85年、天元戦本戦入りし、「棋道賞新人賞」受賞。00年、本因坊リーグ入り。