上達の指南

大矢浩一九段の「今年生まれた新手」

(3)遠くを見た工夫の押さえ

(寄稿連載 2006/12/25読売新聞掲載)

 ◆棋聖リーグ (白)張栩名人(当時) (黒)依田紀基九段

 最近の新手は、既成の常識を覆していく手が多く見られます。また、中国・韓国発が多く、どうしても10代、20代の若手から生まれる新手が目立ちます。しかしベテラン陣が新手に対応し、そこから新手が生まれるケースもあります。

 【テーマ図】 依田九段の新手です。白1の外つけに黒2のハネ出しから6と下がり、白7の内曲がりは比較的新しい手です。黒8のコスミ以下、白17となったとき、黒18の押さえが、依田九段の工夫でした。従来は黒Aのツケでした。

 【1図】 この新手は、遠く左上隅にかかっている白抜き三角の黒と関係があるのです。
 すなわち、白は2のハイから4と飛ばなくてはならないのです。黒5、7以下白抜き三角の黒が働いて、白は16まで後手生きです。次いで、黒17、19と生き、黒の新手成功でした。

 【2図】 1図白4の飛びで、白1とハエればよいのですが、黒2と押さえられます。白3から7、9とカケても、白抜き三角の黒が働いて白がつぶれてしまいます。
 従って、1図白4の飛びはやむを得なかったのです。

 【3図】 比較的新しいと紹介したテーマ図白7の内曲がりについて、触れておきましょう。
 従来は、白1の外曲がりでした。黒2の押しに白3から7で隅を取ることはできますが、黒A、B、Cのいずれも利いていて、隅を取っても白が面白くないと評価されたのです。

 【4図】 そこで改良されたのが、白1の内曲がりです。
 これに黒2の押しから4とのびれば、今度は白5のハイで取れます。これなら黒AもBも利きません。そして、前図にはある白Cがないので、白やや勝ると見ます。そこで、黒2では3とコスむのが現在の主流になったのです。
(おわり)

●メモ● 大矢九段は20年来のオフコースの大ファン。カラオケで歌うだけでは飽きたらず、今月、東京・新宿のライブサロンレストランで、「オフコースとトマトタンメンと囲碁の1日」を開催した。歌って、飲んで、食べて、碁を堪能した。

【テーマ図】
【1図】
【2図】
【3図】
【4図】