岡目八目
(1)中国碁界の隆盛の礎を築く
(寄稿連載 2013/02/05読売新聞掲載)現代中国碁界の礎を築き、日中交流に情熱を傾けた陳祖徳さんが昨年11月、膵臓(すいぞう)がんのため、68歳で亡くなった。林海峰名誉天元に、陳さんの足跡と思い出を振り返ってもらった。
陳さんの方が年下だということを忘れていました。貫禄があるので、年上のような気がしていたのです。
陳さんは1944年、上海市の生まれです。私は42年、同じ上海生まれで、その後、台湾に渡って、10歳で来日しました。陳さんとは同じ囲碁の世界でも、まったく違う道筋を歩んできたのです。
陳さんは、まさに激動の時代を生きた人です。子どもの頃に才能を見いだされ、上海の実力者にかわいがられて成長しました。文化大革命の荒波に揉(も)まれながらも、周恩来さん鄧小平さんらの保護もあって、陳さんも中国碁界も、なんとか試練を乗り越えました。
少年時代に日本行きの計画もあったようです。実現していたら、いいライバルになっていたでしょう。かなり痛い目に遭っていたかもしれません。来日の話が立ち消えになって、中国で自身を鍛え続け、中国碁界を引っ張り、隆盛の礎となりました。陳さんなくして、今の繁栄はありません。
彼がいたからこそ、聶衛平や馬暁春、常昊の登場につながったのです。今の古力や孔傑など幾多の若い才能が開花したのも、陳さんが道を開いてきた努力のたまものです。
この隆盛をだれよりも喜んでいたのが、陳さんだったと思います。そういう意味では、幸せな晩年だったのではないでしょうか。
(談)
ホテルの部屋で研究する陳さん(右)と林名誉天元(2007年)