岡目八目

陳祖徳さんをしのんで 林海峰名誉天元

(3)第一線退いても衰えぬ底力

(寄稿連載 2013/02/19読売新聞掲載)

 以前から、中国の棋士のことで印象に残っているのは、ともかく研究熱心なことでした。あちらに行くと、よく一日中勉強している。主張をぶつけ合って、まるでケンカのようになっても、楽しそうにいつまでも研究が続くのです。この雰囲気はいいな、強くなるなと思いました。

 その熱心な中国の棋士たちは、国際戦で活躍しても賞金はほとんど自分の収入にはならなかった。日本とはシステムが全然違う。ただただ純粋に、碁を究めようとしている。これこそが碁に備わっている魅力なのだと、つくづく感じ入ったものです。今ではある程度、個人の収入も認められていますし、中国リーグが盛り上がり、各地でスポンサーがついて、活躍の場も増えました。陳さんも上海の代表に名を連ねたこともあったようです。

 世界戦は若手が全盛でも、ベテランの棋士にも活躍の場があるのが理想です。年配のファンのためにも、中国の棋士の層が厚くなるのは大事なことだと思います。

 陳さんとは、何度か対戦しています。陳さんが第一線から引いた後ですが、それが強くて参りました。初めは何回か負かされました。なにしろこちらはバリバリの現役ですから、ちょっとつらかった。

 後で勝てるようになって、結局いい勝負で帳尻が合いました。陳さんは当時、碁界のために奔走して、忙しい日々を送っていたころです。大きな対局からも遠ざかって、実戦経験からするとブランクもありました。それがあの強さですから、その底力はたいしたものでした。

(談)

中国囲碁代表団団長として読売新聞社を訪れた陳祖徳さん(左から2人目)(1986年)