岡目八目
(1)碁のことだけ考えて来日
(寄稿連載 2015/01/06読売新聞掲載)アメリカのサンタバーバラという静かな町で育ち、子どものときに碁を覚えました。英語の碁の本があって、木谷実先生門下の話も知っていました。碁の世界に興味がわいて、13歳のときに初来日したのです。
14歳になって、2度目に来日したときにはプロになるつもりでいました。アメリカでは囲碁の強い人が少なかったので、自分がもう少し上達したら相手がいなくなってしまうと思ったのです。日本なら一番強い人と打てるだろうと期待して、碁のことだけを考えてやって来ました。
母は反対で、1年でダメなら帰る約束でした。
大枝雄介先生(九段、故人)の内弟子になる前に、アメリカに一度帰ったのですが、そのときは母に内緒で往復切符を買っていました。母には寂しい思いをさせたと思います。
東京・中野の中学校に入ったのですが、同級生たちが歓迎してくれて楽しく過ごしました。でも、言葉が分かりませんでした。英語の授業は優秀でしたが、国語や社会は理解不能です。先生が国語は漢字の自習にしてくれて、小学3年までの漢字を覚えました。これが財産になりました。
大枝門には、先に安田泰敏九段がいて、それからどんどん増えていきました。みんな口が達者でやられっ放しでした。それが悔しくて、日本語を一生懸命話して上達したのだと思います。英語はほとんど使いませんでした。
5年ぶりに里帰りしたときには、あまりに英語がへたになっていて、アメリカの入管で、本当にアメリカ人かと疑われたくらいでした。それだけ、無我夢中の囲碁修業だったのです。
(囲碁棋士九段)