岡目八目

新井素子さん

新井素子さん

(1)弱くても囲碁って楽しい!

(寄稿連載 2018/05/09読売新聞掲載)

 ◇あらい・もとこ

 SF作家をやっております、新井素子と申します。先日、『素子の碁 サルスベリがとまらない』(中央公論新社)という、囲碁エッセイの本を出させていただきました。

 で、この本なのですが。 囲碁エッセイとしては、かなり画期的なものになっていると思います。というのは、著者が、弱いっ!

 四十を過ぎて囲碁を始めたものですから、進歩が遅くて。この本の原稿(最初は日本棋院の『週刊碁』に連載させていただきました)を書き出した頃、私は二桁級位者。それから十年以上たって、本を出した今でも、まだ2級。

 弱かった人がどんどん強くなってゆき、そして書いたエッセイというのは、ひょっとしたらあるかも知れません。でも、いつまでも弱い人間が、弱いまんま囲碁エッセイ書いているのって、多分前代未聞なのではないかと。

 だから、ある意味とても新鮮なエッセイだと思います。打ち碁でなかなか勝てなくても、囲碁ってこんなに面白い、たとえ万年級位者でも、囲碁ってこんなに楽しめる!

 特に、強い方には、是非、読んでいただければと思います。弱い人間は何が判(わか)らないのか、どうしていつまでも弱いのか(当たり前だけど、わざと弱いままでいる訳じゃない、強くなりたいんだけれど、それに失敗しているだけだ)、少しは判っていただけるのではないかと……。

 あと、弱い方にも、是非! これ書くの、なんか微妙に情けないのですが……とっても共感していただけるんじゃないかなあって思っております。


(作家)