岡目八目

新井素子さん

新井素子さん

(3)知識ない布陣で囲碁の本

(寄稿連載 2018/05/16読売新聞掲載)

 先日、王銘琬さんの、『棋士とAI』(岩波新書)という本を読みました。

 私の棋力では、棋譜が載っていても、アルファ碁の強さって全然実感できないんですが、でも、この本、楽しく読ませていただきました。

 そんで、あとがきで。

 『私の周りに碁が打てない人はそう多くいません。』って、文章を目にした時、うわあって、思っちゃいました、私。

 逆だあ。まったく、逆だ。

 私のまわりには、(当たり前ですが、囲碁友達や同好会のひとを除くと)、碁が打てるひとがあんまりいません。

 『素子の碁』ってエッセイ本の担当編集者は、9路盤でやっと碁が打てるかなって程度、本の中で碁盤のレイアウトをやってくださる方は、囲碁まったく知らない、校閲やってくださる方も、囲碁、全然知らない。

 ……そもそも、著者が、2級だ。これで、関係者がみんな、碁を知らなかったら……きゃああああっ。

 も、問題、続出。

 「ここに棋譜をいれて下さい」「そもそも棋譜って何ですか」「これ、順番逆です」「え、そうなるの?」の世界。

 この布陣で囲碁エッセイの本出しているんだ、わはははは、無茶?無理?(勿論、囲碁知ってる方に見てもらっていますが。)

 ま、でも。

 んなこと言ってたら、ある程度専門に特化したエッセイの本なんて、出せないって話になりますもんね。だから、出させていただいちゃったんですが、いやあ、世界が違うと見える景色は、多分全然違う。

 それが判っただけで、大収穫だったと思います。


(作家)