岡目八目

新井素子さん

新井素子さん

(2)碁は人間と打つもの

(寄稿連載 2018/05/09読売新聞掲載)

 弱い著者が弱いまんま書いた囲碁エッセイ、『素子の碁』なんですけれど、この冒頭に、頭抱えるシーンがでてきます。私が、囲碁を始めるきっかけになったエピソードを描いたシーン。

 『ヒカルの碁』という漫画にはまった友達が、ゲームボーイ・アドバンスで囲碁を始め、それをうちでやっているホームパーティで宣伝して、気がつくと八人ほどのひとが、「囲碁まったく知らないのに」「漫画の『ヒカルの碁』が面白かったから」「周囲に碁を打てるひとが一人もいないのに」、囲碁を始めてしまった、そんな事実から始まります。

 自分で書いといてなんなんですが、これ、無茶(むちゃ)です。

 碁を打てるひとが一人もいないのに、いきなり八人もの人間が囲碁を始める。先生役は、ゲームボーイ。

 無茶です。無理です。

 だって、囲碁ソフトは、質問に答えてくれない。

 ここに打っていいのか?

 どうすれば終わるのか?

 ここで終わってしまって本当にいいのか?

 そんなすべての質問に、答えてくれるひとがいない状況で、初心者が八人。これはもう……事態紛糾し放題。

 かなりしてから、ホームパーティに、当時8級だった方が参加してくれ、それでやっと、この事態は収束したのでした。

 この時。私は本当に、心から、思いました。

 人間って、素晴らしい。だって、向こうから色々しゃべってくれるんだもの。

 人間の囲碁友達がいる方。それ、ありがたいことなんです。

 碁は、人間と打つものです。


(作家)