岡目八目

ローツステット・エリックさん

ローツステット・エリックさん

(2)スウェーデン 高い囲碁熱

(寄稿連載 2019/01/16読売新聞掲載)

 1年間のフランス留学からスウェーデンに帰国後、南部にある大学町・ルンドのルンド大学に入学した。以前から数学が好きだったので、物理工学を専攻した。 ルンドにも小さな囲碁クラブがあったが、毎週クラブのメンバーの誰かの家に集まって打っていた。毎回5人ほどの少人数ではあったが、皆熱心でまた日本の囲碁などに詳しかった。

 中には日本に旅行したとき、厚い碁盤とハマグリの碁石を購入して持ち帰った人もいた。一番強い人は二~三段だった。クラブの強い人は囲碁の本(定石や手筋)を持っていて、ほとんどが日本語から翻訳されたものだった。この頃、ネット対局もよく打っていた。

 1999年にストックホルムにある王立工科大学に転学した。ストックホルムはスウェーデンの首都であり、人口100万人。ルンドより大きな囲碁クラブがあった。毎週チェスのサロンの一部を借りて10~15人が集まって、五~六段の強い人もいた。このクラブも熱心な人が多くて、仕事や大学を1年ほど休んで中国や韓国へ囲碁の勉強に行った人もいたほど。この中に中国からの移民が何人かいたが、日本人はいなかった。

 チェスのサロンはストックホルムの南部にあったけれど、私のアパートは北部であった。夜遅くまで打って、暗い街を自転車で横断して家に帰った。2002年に結婚して、翌年長男が生まれた。04年に大学を卒業したときには、初段くらいの棋力にはなった。

 05年に博士号を取得するためドイツに引っ越し、この年に次男が生まれた。博士号のための研究(専門は理論物理学)をしている間は碁を打つ暇はなかった。


(東京大学助教)