岡目八目

ローツステット・エリックさん

ローツステット・エリックさん

(4)碁打ちは皆優しい

(寄稿連載 2019/01/30読売新聞掲載)

 囲碁の一番の魅力は暗闇で戦っているという感覚だ。変化があり過ぎて先が読めないから、この先がどうなるかというドキドキ感がよいと思っている。だから好きな碁は複雑な戦いだ。簡単な手と難しい手を選択する局面では、間違いなく難しい手を選択する。それが勝ちにつながるかどうかは、別の話だけれども――。

 複雑な戦いになって負けるのはしばしばあるけれど、そういう碁になって勝ったときは快感である。

 もうひとつ碁の魅力的なところは、碁石と碁盤を触るときの物理的な感触だ。石を中指と人さし指で持って、盤に置く動作自体が碁を打つ面白さだと思っている。また先後を決める「握り」や、礼に始まり礼に終わるなど、私の好きな点である。

 そして何より碁の一番よいところは、もちろん人である。フランス、スウェーデン、ドイツ、日本で碁を打つ機会に恵まれたが、碁打ちは例外なく皆優しい心の持ち主である。

 日本に来てから「谷根千(やねせん)」という言葉を知った。東京の下町情緒にあふれる魅力で、若者や外国人観光客にも人気の観光スポットと聞く。一度訪れてみたいと思っていたら、囲碁のお陰で知らぬ間に常連になっていた。

 根津駅近くの日本料理屋「坂」の女将(おかみ)は碁が大好きで、お客さんは囲碁のグループのみ。日本青少年囲碁協会副理事長で、東京大学名誉教授の箕輪光博先生が主宰する「箕輪会」に参加し、気の置けないメンバーとビールを飲みながら碁を打つのが、私の楽しみになっている。

 伝統文化の囲碁が根付いている日本に来て、本当によかった。


(東京大学助教)(おわり)