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岡目八目

読売新聞 2010/03/30掲載
福井正明さん

(1)道策全集で古碁のとりこに(寄稿連載)

 ◇ふくい・まさあき
 「古碁」という言葉をご存じでしょうか。
 読んで字のごとく「古い碁」のことで、具体的には江戸時代から明治・大正期までの碁を指します。
 そして私が古碁に興味を持ったのは、もうかれこれ50年ほど前になりますか。プロ棋士になるべく修業をしていた10代の頃、院生時代にさかのぼります。
 碁好きだった親父(おやじ)が買ったのでしょう。家に「本因坊道策全集」があり、それを手に取ったことが、古碁との出会いとなりました。値段が10円だったということを、なぜか鮮明に憶(おぼ)えています。
 和綴(と)じ本の美しさにも魅了されました。ほのかに和紙のにおいが漂ってきて、何とも言えぬ格調の高さのようなものを感じたのです。よほど興味を持ったようで、私は紙にキリで穴を開けて束ね、そこに糸を通して手製の和綴じ本を作ったりもしました。もちろん出来上がった物は、とても「本」と呼べるような代物ではなかったのですが…。
 さて本因坊道策ですが、古碁になじみのなかった当時の私でも、さすがにこの大棋士の名前は知っていました。
 とはいえ初めはやはり「大名人と言っても、しょせんは300年も前の碁だろ」と侮る意識があったのですが、いざ全集を並べ始めるや、瞬く間にその奥深さのとりことなってしまったのです。
 収められている棋譜のすべてが、完璧(かんぺき)としか言いようのない芸術作品。囲碁という遊戯の究極の姿が、そこにはありました。
 この時の感動が50年を経た今も、私を古碁の世界にひき付けているのです。
(囲碁棋士九段)
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