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岡目八目

読売新聞 2010/04/13掲載
福井正明さん

(3)過去と現代の比較は無意味

 ◇ふくい・まさあき
 ファンの方と古碁に関する話をしていると必ず尋ねられるのが「歴代の名人で一番強いのは誰だと思いますか?」という質問です。
 どの世界においても「最強者論議」は盛んなようで、囲碁界もその例にもれないわけですが、実は私は、こうした議論にほとんど興味がありません。というより「時代の異なる人を比較しても仕方がない」と思っているのです。
 そもそも囲碁というゲームは、時代とともに進歩するものなのか――。現代の音楽がモーツァルトやベートーベンを超えているとは言えないように、囲碁もまた現代が過去にまさっているとは言い切れないでしょう。
 仮に現代の囲碁が進歩しているとしても、だからといって「古い時代の碁は価値がない」というものではありません。「フジヤマのトビウオ」と呼ばれた水泳の古橋広之進さんの記録を現代に当てはめると、女子選手よりも遅くなってしまいますが、だからといって古橋さんの偉大さが損なわれるものではないのと、まったく同じ理屈です。
 どんな時代でも、その時代におけるナンバーワンは偉大なのです。誰もが全身全霊をかけて頂点を目指しているのですから、その中で第一人者になったという事実に、後世の人間は敬意を払わなければならないと考えます。
 そうした理由で私は「誰が実力ナンバーワンか?」という問いには返答しかねるのですが、意図を変えて「誰を最も尊敬するか?」という質問なら、明確に「本因坊道悦」と答えることができます。
 次回は、この道悦についてお話ししましょう。
(囲碁棋士九段)
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