岡目八目

郷原宏さん

郷原宏さん

(3)勤労感謝の日「詩人囲碁大会」

(寄稿連載 / 2005.10.17読売新聞掲載)

 毎年、勤労感謝の日に、日本棋院八重洲囲碁センターで、詩人だけの囲碁大会を開いている。十年ほど前までは、読売新聞社の後援を得て「詩壇棋聖戦」と名づけていたが、われわれ程度の棋力で棋聖を名乗るのはおこがましいという意見が出て、「詩人囲碁大会」に落ち着いた。

 大会の名称は変わったが、開催日は変わらない。詩人は毎日が日曜日のようなものだから、わざわざ旗日にやる必要はないのだが、平日の昼間から碁を打つのは、なんとなく後ろめたい。それに、詩人というのはそんなにヒマなのかと思われたくないというミエもある。

 その点、勤労感謝の日なら、どんなに勤勉な労働者も仕事を休むはずだから、勤勉でないわれわれが碁を打っていても見逃してもらえるだろう――というわけでもないけれど、いつしかこの日がわれわれ詩碁人の、最も熱くて長い日になった。

 ところが、世間はわれわれを見逃してはくれなかった。会場入り口に「詩人囲碁大会」の看板が出ていると、別の会場に来ている人たちが入れ替わり立ち替わりやってきて、珍しい動物でも見るように、対局中のわれわれの顔をのぞき込むのである。

 私は昔、ある高校の読書サークルに招かれて話をしたとき、生徒の一人に「生きてる詩人を初めて見ました」といわれて面食らったことがある。彼らにとって詩人は教科書に出てくる「歴史上の人物」であって、この世に生きているとは信じられなかったのである。

 囲碁センターのギャラリーも、事情はたぶん似たようなものだろう。だが、そこにはあいにくテレビに出るような有名人がいない上に、碁の内容があまりにもひどすぎるので、彼らはやがて拍子抜けしたように立ち去っていく。ひょっとすると、われわれは詩人のイメージをひどく損ねているのかもしれない。

 次回からは「碁人大会」とでも改称しようかと考えている。

(詩人)