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岡目八目

読売新聞 2005/10/24掲載
郷原宏さん

(4)碁会所通いの「碁苦楽人生」(寄稿連載)

 毎週三回、吉祥寺の碁会所へ出かける。雨にも負けず風にも負けず、妻の小言にも原稿の締切にも負けずに出かけていく。一日の対局時間は平均六時間。つまり年間約一千時間をここで過ごす。これはたぶん、家で仕事をしている時間より長い。私が自ら「碁人」を名乗るゆえんである。
 定期的に碁会所へ通うようになったのは、今から三十年ほど前のことである。当時は大手町の新聞社で内勤の遊軍をしていたが、仕事が一段落すると「取材中」と書き置きして社を抜け出し、近くの碁会所で二、三時間、油を売ってくることが多かった。
 何でもお見通しの上司に「潜行取材の成果はなかなかあらわれないようですな」と皮肉をいわれると、「局面が複雑すぎて黒白がつかないのです」などと答えたものである。今にして思えば、なんとも寛容でありがたい職場だった。
 それから間もなく退社して文筆専業の生活に入ったのだが、困ったのは時間配分のペースがつかめないことだった。それまで長らく新聞記者として時間に追われる生活に慣れていたので、いきなり全部が自分のものになった二十四時間の使い方がわからなかったのである。
 そこで時間的なローテーションの軸を確立するために、定期券を買って碁会所へ通うことにした。そのときになって初めて、ここには毎日定時に出勤してくる元サラリーマンがたくさんいることに気がついた。
 考えてみれば、碁会所ほど気楽に、しかも安価に人生の午後を過ごせる場所はない。ここにはライバルはいてもリストラや定年はないのである。
 碁会所へ通うようになってから、生活スタイルが安定し、気力と棋力が充実し、仕事の能率があがるようになった――といいたいところだが、そうは問屋が卸さなかった。勝てば浮かれて仕事が手につかず、負ければくやしくて原稿どころではなくなってしまう。私の「碁苦楽人生」は、まだ当分は続きそうである。
(詩人)
(おわり)
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