岡目八目

原幸子さん

原幸子さん

(1)母親目線注ぐ「依田塾」

(寄稿連載 / 2015.06.30読売新聞掲載)

 ◇はら・さちこ

 夫(依田紀基九段)を塾長に、子どもたちに囲碁を教える「依田塾」を始めて6年目になります。子どもの囲碁をとらえる感覚は、大人の常識を超えたところにあります。驚きと新たな発見の日々です。子どもの囲碁の世界に自分がこんなにもどっぷり浸(つ)かることになろうとは、想像もしていませんでした。

 もとは東京の郊外に住んでいたのですが、夫が「手合前に電車に乗ると弱くなる」と宣言して、11年前に日本棋院に近い千代田区番町に引っ越しました。私は、産後は手合を休業し、囲碁と関わりなく生活していました。

 長男が幼稚園児だった時、保護者と先生が対象の教養になるイベントの話が持ち上がり、「依田さんて確か囲碁ができるんじゃない」と水を向けられたのが、事の始まりでした。

 当時、東北大学の川島隆太教授が日本棋院と共同研究を行っていました。囲碁を教える前と後で、子どもたちの思考力、短期記憶力、総合的な作業力などを比べるものです。地元の小学生がモニターになっており、番町かいわいは、囲碁が子どもの知育によいという研究成果が浸透している地域だったのです。

 幼稚園で入門講座を行った数日後から、問い合わせが続々と入ってきました。「子どもに教えたら私より強くなってしまった」「うちの子は天才かもしれない」「どこか囲碁を習う場所はないか」

 当初は棋院の教室をお薦めしていたのですが、反響は強まるばかり。そこで近くのビルの一室を借りて教えることとしたのです。私が子どもの頃の経験を思い出しつつ、母親目線で環境づくりにとりかかりました。

(囲碁棋士四段)