岡目八目
(4)最善を考えられる能力
(寄稿連載 2015/07/21読売新聞掲載)入門指導はそれぞれの特性に合った方法を選ぶのが理想的です。2年前から始めた東京工業大学の授業は驚きの連続でした。
ガイダンスの次に6路盤で石を白黒二つずつ置いた状態から石取りゲームをしてもらうと、まず聞こえてきたのは「先に打つ黒の勝率が悪い。おかしい」という声。そして終局の場面から1手ずつ巻き戻しながら検討を始め、初手の「当たり」が失着だという結論を導き出したのです。
「コウ」という特殊な形についても、最初の授業で質問されました。次の質問は、「では同時に三つコウができたらどうなるのですか」。これだけ研究熱心な彼らには、入門時に「石の効率」から教えるしかないと思いました。
台湾には独特な指導法があると聞き、1泊2日で学びに行きました。まず囲碁脳を作るゲームを3か月ぐらいやるのです。様々なゲームを通して、ルールの前に囲碁の考え方を感覚的に学ばせる目的です。その後に囲碁を教えると、ルールを覚えた時点で15級の壁は越えているそうです。「当たり」でも「地」でもない囲碁の入り口があったことは衝撃でした。
入門を経て、子どもたちには囲碁からたくさんのことを吸収してほしいと願っています。「依田塾」の子どもたちは難関中学合格率が高いのですが、2020年の大学入試改革を見ると、さらに囲碁が役立つだろうと思います。
囲碁の良さは暗記力とは全然違う脳を鍛えられる点。正解が分からない中で最善を考えられる能力を養える点だと思っています。大人になれば、それしか必要ないわけですから。
(囲碁棋士四段)(おわり)