岡目八目
(3)共同研究で若手育成を
(寄稿連載 2016/03/15読売新聞掲載)以前、中国のある省の責任者の方に「私は弟子を30人くらい育てているのですが、先生のお弟子さんはどれくらいいるのですか」と尋ねたことがあります。返ってきた答えは「1万人」。本当に驚いたのですが、このけた違いの裾野の広さが、中国の強さの最大の要因であることは間違いありません。
優秀な若手がしのぎを削る、徹底的な優勝劣敗の原理が働いているのです。日本で若手が伸び悩んでいると、なんとか引き上げようと周囲が手を貸しますが、中国では「脱落した子は面倒を見ない」と、その先生は言っていました。代わりはいくらでもいるということで、そうして生き残った子たちを、さらなるふるいにかけていくのです。
しかし同じことを日本でやろうとしても、それは無理です。日本が今後、中国や韓国に並ぼうとしたら、今いる若い棋士たちを徹底的に鍛えるしかありません。私は日本の囲碁界が、早くこうした方向に踏み出してほしいと思っています。具体的には共同研究を活発化させるのです。日本には「碁は自分一人で強くなるもの」という美学があり、これはこれで素晴らしい考え方だと思っていますが、今のままでは一人が千人を相手にするようなものなので、限界があります。
韓国では中国に追いつくべく、かつて世界タイトルを取った劉昌赫九段が有望な若手を集めて毎日、猛烈な勉強会を開いています。
ですから日本でも、例えば依田紀基九段のような偉大な先生が若手を鍛えるシステムを作り上げれば、中国や韓国に追いつくチャンスは十分にあると信じています。
(囲碁棋士三段)