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岡目八目

読売新聞 2008/01/07掲載
石倉昇さん

(1)東大生にも「五つの効用」を(寄稿連載)

 ◇いしくら・のぼる
 3年前の秋から、東京大学では、全学体験ゼミナール「囲碁で養う考える力」を毎学期開講しています。講師は、黒瀧正憲七段、梅沢由香里女流棋聖、私の3名。これまでにも大学で囲碁が指導されることはありましたが、プロ棋士による授業は初めてです。この間、私が学生と接してきた感想をお話していきましょう。
 「東大で囲碁を」という提案は、当時日本棋院の理事長だった故加藤正夫名誉王座によるものでした。若い人たちへの囲碁普及に熱心に取り組んでおられた加藤先生と、東京大学の兵頭俊夫教授の熱意により、開講される運びとなったのです。
 では、なぜ「東大で囲碁」なのか。私は、囲碁には、学生にとって五つの効用があると考えています。
 一つ目は、「考える力」を養うこと。囲碁では、基本(定石や考え方)を理解した上で、それを工夫することが必要です。これは学問にも通じ、学生が社会で生きていくうえでも大事なことです。
 二つ目は、「相手にも与えるバランス感覚」を身につけること。囲碁は、陣取りゲームですが、すべて自分のものにしようとすると失敗します。相手にも与えるというバランス感覚は、周囲を見渡す力も育てます。
 三つ目は、「負ける経験」をすること。コンピューター全盛期に育った子供たちは人間対人間の勝負をすることが少なくなってきています。でも、学生たちが社会に出てどういう仕事をするにしても、直面するのは人間対人間の関係です。負ける経験は、相手の立場や気持ちを理解する感性を育てます。負けた経験の少ない東大生は、社会に出た後の挫折に存外弱いもの。学生時代の「負けた経験」は、将来に役立つと思います。
 四つ目は、「大局観」(広い視野でものごと見る)を育てること。五つ目は、思い通りにいかなくてもしっかり辛抱するという「忍耐力」をつけることです。
 このような効用をねらいとして、東京大学の囲碁の授業は始まりました。
(囲碁棋士九段)
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