岡目八目
(4)教育現場に取り入れる意義
(寄稿連載 2008/02/04読売新聞掲載)東京大学の授業「囲碁で養う考える力」の最終回は、学生の中で一番強くなったと思われる男女がペアを組み、講師の1人である黒瀧正憲七段に9子局で挑戦。この対局を私と梅沢由香里女流棋聖が、リアルタイムで大盤を使って解説していくというものです。対局は、ペアの1人が5手から10手ずつ打って交代し、途中、ピンチの局面で一度だけアドバイスをします。
それまでの授業の中で「9子局必勝法」という講義もしており、昨年は学生ペアが立派な打ち回しで黒瀧さんに2目勝ちました。2人とも10級以上の棋力になったといってよいでしょう。
毎学期、出席率が高く、学生たちが短期間に囲碁を習得できたことは大きな収穫です。「難しい。とっつきにくい」と思われがちな囲碁も、「決め打ち碁」方式(途中まで模範対局どおりに打ち、あとを自由に打つ)を使えば、楽しく覚えることができるのです。
なお、授業の内容は、昨年『東大教養囲碁講座』(光文社新書)として出版されました。
東大では、囲碁の授業と並行して、囲碁が脳にどのような影響を及ぼすかという研究も進められています。こちらの研究をしている先生方が、授業に参加しているうちに10級ぐらいになってしまったという意外な成果もありました。ちなみに、「一番強くなったのは私です」とおっしゃっているのは、担当の兵頭俊夫教授です。
東大に限らず、学校や私塾などで囲碁を取り入れるところが確実に増えてきていますが、今後ますます増えてくれればうれしい限りです。他人とうまくコミュニケーションをとれない、相手の気持ちを思いやれない、すぐにキレる……。こうした若者の問題が浮上してきた今、囲碁を子供や若者の教育に取り入れることは大いに意義あることだと思います。彼らにとって、囲碁がどれほど役立つものであるかを、私自身も、これから何度でも提案していきたいと考えています。
(囲碁棋士九段)(おわり)