岡目八目
(2)効率よい指導法確立目指す
(寄稿連載 2008/01/21読売新聞掲載)2005年10月、いよいよ東京大学駒場キャンパス(教養学部で、1、2年生対象)で、「囲碁で養う考える力」のガイダンスが行われました。果たしてどのぐらい学生が集まるだろうかと不安でしたが、定員約40名のところ、100人以上の学生が教室を埋めました。
私がガイダンスで話した内容は、前回ご紹介した「囲碁の効用」、3000年近い「囲碁の歴史」、今や世界で4000万人のファンが楽しむ「国際的なゲーム」であること。そして、基本的な囲碁のルールです。
実は私は、「単位」を取ることだけが目的の学生も少なからずいるのではないか、などと考えていました。けれども、話を聞く彼らの目が次第に輝いてくるのを目のあたりにし、この授業は大きな成果を上げることになるかもしれないと自信がわいてきました。
ガイダンスの後に学生たちに作文を書いてもらい、これを審査して、受講許可を出します。審査基準は、「全くの初心者であること」と、「囲碁に熱意があること」ですが、彼らの作文に私は大きく力づけられました。「一度は興味を持ち、ルールはなんとなく覚えたけれど、その後がわからなかった」という内容が目立ちました。そして「このまま社会に出たら、囲碁をやる機会は一生訪れないかもしれない。この機会にぜひ囲碁を覚えたい」という作文が圧倒的に多かったのです。切々と熱意を訴えられ、何十人もの学生を落とすのは忍びないものでした。
「興味はあるが覚える機会がない。周囲に指導者がいない」という人たちは、東大生に限らず非常に多いことでしょう。効率のよい指導法を確立して発信していくことは、私の大きな目標となりました。
古代中国では「琴棋書画」(音楽、囲碁、書道、絵画)が君子のたしなみでした。この中で、囲碁だけが日本の教育の現場から抜け落ちてしまっていますが、情操教育として、また教養、文化という側面からも見直されることを願っています。
(囲碁棋士九段)