岡目八目
(3)「天地明察」映画化に参画
(寄稿連載 2012/04/24読売新聞掲載)第七回本屋大賞を受賞した冲方丁(うぶかたとう)さんの「天地明察」が、滝田洋二郎監督の演出で映画化されることになった。
「天地明察」は、安井算哲(後に渋川春海と改名)という囲碁棋士が主人公である。
この算哲が幕府の命を受けて改暦に挑むという物語だ。
この映画のシナリオを滝田監督と共同で執筆した。
算哲は、将軍に上覧する御城碁で、ライバルの本因坊道策相手に、初手天元の棋譜を残している。
囲碁ファンの方に改めて説明するまでもないが、初手天元とは、通常は隅から打たれる一手目を、いきなり中央に打ち下ろすという奇手である。
伝説の対局は、映画にも登場する。主人公の安井算哲を岡田准一さん、ライバルの本因坊道策を関ジャニ∞の横山裕さんが演じた。
撮影にあたって、この二人は、その棋譜を暗記するよう監督から要求された。
囲碁の棋譜を暗記するのはとても難しい。二人とも囲碁はほとんど知らないから、手順を覚えるのは至難の業、というかほとんど不可能に近い。
ところが、岡田さんと横山さんは、この棋譜を五十一手目まで見事に覚えきった。さぞかしたいへんな苦労があったに違いない。岡田准一さんは常に碁石を持ち歩き、役作りのため、できるだけ石に触れていたというようなエピソードも耳にした。そのかいがあって、華麗な石さばきで立派な対局シーンになった。
映画「天地明察」は今年の九月全国公開される。
囲碁ファンとしては、棋士が主人公の映画に参加できてとてもうれしい。
(脚本家)