岡目八目
(2)欧州で知った新たな碁の魅力
(寄稿連載 2013/07/30読売新聞掲載)テレビの囲碁番組の司会者に抜擢(ばってき)されたことが、囲碁との幸せな時間の始まりとなりました。囲碁は全く知りませんでした。日本棋院の安藤武夫理事(七段)のお世話で、どの教室もフリーパスにしていただきましたが、正直言って、ちんぷんかんぷんでした。
しばらくして何か惹(ひ)かれるものがあって、自分で月謝を払って通うようになって、面白みが分かって来ました。
担当した番組の一つ「世界アマ囲碁選手権」で外国人が碁を打つ姿に衝撃を受けました。一九九四年、第十六回の京都大会で、市内を案内したフランス囲碁協会の役員夫妻から、お礼にパリの家に遊びに来ないかと誘われ、単身飛んで行きました。その時、連れて行ってもらった碁のサマーキャンプで更なる衝撃を受け、私の人生が変わりました。
パリから南へ六五〇キロ、山岳地帯サンヤッケにある十六世紀のカイコ小屋(石造り三階建て)を改造したモダンなホテルで、昼夜碁を打ち、飲み、歌い踊り、泳ぎ、歩き、語る、十五日間眠ることを忘れる人々。その自由で豊かな遊び心に感動して以来、毎夏、欧州各地で開かれるヨーロッパ碁コングレスに参加し、病みつきになってしまったのです。
コングレスは、夏休み中の高校や大学のキャンパスを使い、参加費の安さと観光では絶対に行けない地方の開催地が何よりの魅力です。
日本との違いは、高段者と級位者が区別なく扱われる雰囲気です。定石にこだわらず、自分の考えで打ち、長考します。日本人は最初、戸惑いますが、慣れて来ると長考の碁の魅力にはまっていき、改めて碁の素晴らしさに気づくのです。
(囲碁ジャーナリスト)