岡目八目
(2)「強い韓国」背景に厳しい競争
(寄稿連載 2005/03/28読売新聞掲載)韓国のプロ棋士が強くなったのには背景がある。子供を育成する土壌がしっかりしているのだ。日本だと中学生以下で五段程度の実力があれば、簡単な試験を受けて院生になれるが、韓国ではそうはいかない。
院生採用のための大会が年3回ほど開かれ、韓国全土からなんと300人前後の子供が集まり、5人ほどの入院枠を目指して戦う。そして院生になれたとしても、プロ棋士になるまでの道のりははるかに遠い。
現在、韓国棋院の院生は120人(うち女子48人)。棋力ごとに12人ずつが10組(うち女子4組)に分かれて手合を打つ。トップの組で最も成績のいい人が入段するのだが、反対に最下位の組で勝てないと辞めさせられる。
各地の子供教室も、何人を院生にしたかによって格が変わってくるらしい。受験戦争のようなものだと思ってもらえれば分かりやすい。たとえ院生を辞めさせられてもあきらめず、もう一つ上のレベルになるまで熱心に指導し、再び大会に送り出す。そんな教室が多いから、大会のレベルも、院生のレベルもどんどん上がっていく。
院生の実力は5年前と比べて1子ほど強くなっているらしい。5年前は新入段者がすぐに大活躍するという例はまれだったが、今はわずか2年で世界戦の韓国代表になったり、国内棋戦でリーグ入りしたりする。
私と同年代の30歳前後の棋士たちは、「今院生に戻ったら、勝ち抜いて棋士になる自信がない」と口をそろえる。世界戦で好成績を収めても、決して安心できない。足元を後輩に脅かされているからだ。世界戦で勝つより、国内予選を勝ち抜く方が難しいという話もうなずける。
これに対し、日本では囲碁のステータスは低く、数ある習い事の一つに過ぎない。韓国で大ブームを起こした李昌鎬九段のようなスーパースターの出現は夢物語かもしれない。やはり指導者が教え子との関係を地道に深めていくことが肝要なのだろう。
(関西棋院棋士、七段)