岡目八目
(2)囲碁を学校の教科に
(寄稿連載 2016/08/30読売新聞掲載)私の子ども時代は終戦直後の昭和20年代で、日本は貧しかった。子どもの遊びの中心は、屋外では川で魚を取ったりメンコやビー玉遊びなど、お金がかからない遊びが中心だった。屋内では塾などの習い事もなく、兄弟姉妹で工夫し、けんかしながら、いろいろな遊びを体得したものです。
我が家は5人兄弟で、両親に育てられたというより兄弟の中で揉まれながら大きくなった。長男がどこかで覚えた囲碁を我が家に持ち込んだ。五目並べから始まり、いつの間にか本碁を覚えていた。長男には最後まで勝てなかったが、一回でも勝とうとしたことが一生の趣味になりました。
家の前が床屋さんで、隠居したおじいさんがいつも店で囲碁を打っていた。散髪のお客さんより囲碁仲間の方が多かった。のんびりした時代で、浮世床の世界に囲碁は付き物でした。
今は家庭や近所で、囲碁に接する機会はほとんどない。外国では学校の教科にチェスが入っている国があると聞く。日本でもせめて選択教科に取り入れ、プロ棋士やアマ有段者が学校の囲碁クラブの講師として指導できるシステムを構築してはどうか。学校との関係を深めることが囲碁の普及につながると思うのです。
「秀芳囲碁さろん」も年配者が多いのですが、その中に交じって小中学生が熱心に打っている。「ヒカルの碁」を見て育った世代であろうか。
若い井山裕太棋聖が七大タイトルを独占し、人工知能が世界最強の棋士に勝ったりと、囲碁が茶の間の話題になっている。普段の生活の中に、再び囲碁が戻ってくる気配が感じられてうれしく思っています。
(早稲田大学名誉教授)