岡目八目

木谷好美さん

木谷好美さん

(1)偉大な伯父・木谷実の教え

(寄稿連載 / 2012/02/07読売新聞掲載)

 ◇きたに・としみ

 故木谷実(九段)は母と十五歳離れた兄で、伯父にあたります。「好美を棋士にしたい」との鶴の一声で、バレリーナを目指す夢を断念し、小学五年で大阪の木谷門下である尾崎春美七段に入門しました。伯父ではあっても一門の宗師であり、私にとっては先生です。先生の関西の後援者回りに、来日したばかりの趙治勲さんと私がお供をしました。先生はアマチュアとの指導碁でも一局に五時間もかけられ、宿に帰ると、大好きな時代劇を見ながら、疲労回復の温灸(おんきゅう)を受けるのが日課でした。そこに我々二人が呼ばれ、その日のアマチュアとの対戦成績を報告するのです。

 同じ人と二局打ち、最初に負けて後で勝った時を、「一勝一敗」と言うと、先生から「それは一敗一勝と言うんだ」と諭されたものです。子供心にも、勝負の厳しさと、碁盤を前にしたら、だれとでも手を抜かずに一生懸命に打つという先生の身をもっての教えを受けたことが、忘れられません。

 また、「初対面の相手には負けてはいけない」とも言われました。数年前、石田芳夫二十四世本因坊と仕事で一緒になった時、「木谷門下は先生の教えを守り、指導碁でも負けてはいけない、を続けてきたけれど、最近は、そろそろ負けてあげることがあってもいいかなぁ、と思うようになってきた」と、しみじみと話していました。

 私の入段と同時に、木谷先生は亡くなりました。見届けてくださったのでしょうか。トーナメントは優秀な門下生にまかせ、私は、先生の大好きだったアマチュア指導を天職と信じ、この道をひたすら歩んでいます。

(囲碁棋士初段)