岡目八目
(4)ご縁を大切に人生を学ぶ
(寄稿連載 2012/02/28読売新聞掲載)囲碁界の先輩だけでなく、様々な分野の人とのつき合いが私を育ててくれました。人との縁を大切にしながら、いつも感謝しています。
「レンズは人を磨く」と、あるテレビ局のディレクターがいいました。簡潔で説得力がありますね。テレビの聞き手を務めていて、「梶原武雄九段とのコンビが楽しい」と局にファンレターが届くようになり、聞き手の役割が理解されつつある、とうれしく思っていた頃のことです。梶原先生の「ウーン、オワ(おわりの意味)だね」の名言は大人気でした。坂井秀至八段が小学生の時、父親と楽しく見てくださっていたと聞いてから、おつき合いが続いています。
個性派の代表、坂田栄男九段にも聞き手でご縁が生まれ、アメリカのアマ大会のお供に指名され、一か月の旅をしました。坂田先生とアメリカのチャンピオンとの公開対局で、「2子で打ちたい」と言う相手に、「世界で私に3子で勝てるアマチュアはおりません」と断言し、結局、3子で坂田先生の完勝でした。
加藤正夫九段とは、兄妹のようなおつき合いでした。「人の優しさは決断力だよ」が口ぐせでした。味わい深い言葉でしょう。
「トシミはいいナ。次は勝てるか、次は勝てるかと、夢があって。僕なんか、次は負けるんじゃないか、心配で、心配で」。無邪気な笑顔が目に焼き付いています。
94歳の男性のお弟子さんが、コースターに「世の中はとにもかくにも運と縁。されど辛抱、努力!」と書かれました。私は囲碁から人生を学ぶ道を歩いています。
(囲碁棋士初段)(おわり)