岡目八目
(3)どこまで勝負にこだわるか
(寄稿連載 2011/02/15読売新聞掲載)アジア大会ぺア戦の予選では、日本の感覚では信じられない「事件」が起こりました。
敗勢だった韓国ペアが、手段のない場所に着手し続け、相手の時間切れを狙ったのです。規定により審判がこの遅延行為を止めましたが、伝統ある強い国がそのような行為に至ったことは衝撃で、あまりにも寂しいことでした。日本の棋士で、これができる人はいないでしょう。
日本は紳士的すぎて勝負強さが足りないと内外から指摘されていますが、日本のファンも、ここまでいくと勝負にこだわりすぎだと思うのではないでしょうか。
韓国チームの中には、ツボを刺激する針を頭に何本も打ったまま対局した選手もいました。勝負への執念の違いを目の当たりにした思いです。
そこには「どこまで勝ちたいか」という問題があります。勝つためにどうするかを真剣に考え、組織的に取り組んだのが韓国です。そして、その考え方に筋が通っていることを、金メダルを3競技で独占する結果として証明してみせました。冒頭の行為も、個人的には究極のハテナですが、全否定はできないのです。これが勝負の世界かもしれません。
こうした中、女子団体の3位決定戦での日本チームの負け方は、私には日本の誇りにすら思えました。鈴木歩さんが手合時計を押したつもりが押せておらず、時間切れとなったのです。中国製の時計は問題が多々ありました。「時計の不備を抗議するべきだ」という意見もあるかもしれませんが、個人的には、自分の責任ですと言い切った鈴木さんの潔さが強く印象に残りました。
(囲碁棋士六段)