岡目八目
(1)院生師範の新鮮な日々
(寄稿連載 2014/06/17読売新聞掲載)◇こまつ・ひでき
日本のプロ碁界は、若い井山裕太棋聖がタイトルを独占する勢いで、挑戦者は先輩たちがリベンジに来る構図が当たり前のようになっていました。それが本因坊戦で伊田篤史八段が挑戦するなど、井山さんより若い世代が台頭しつつあります。若手がどんどん出て来れば、当然、碁界は盛り上がります。
ぼくは日本棋院東京本院で院生師範をしていますから、教え子たちがプロになってどんどん強くなるのを見るのは、うれしい限りです。彼らから刺激を受けて、自分もがんばろうという意欲もわいてきます。
初めて院生師範になったのは、2005年のことです。その前年の暮れ、日本棋院理事長として奔走していた加藤正夫九段が突然亡くなられたのです。身を削るような活動をされているさなかの不幸で、ぼくも思うところがあったのです。柄にもなく自分もなにか出来ないものかと考えて、院生師範を志願したのです。
それまでは研究会に来た院生と接するくらいで、自分がプロ棋士を育てようなどと思ったことはありませんでした。途中、2年ほど離れましたが、今年でもう通算8年目になります。初めは子どもたちに教えてやるくらいのつもりだったのですが、実際に師範をしていると、生きのいい若い才能に触れて、新鮮な刺激を受けるのです。彼らの碁を一緒に検討して、ぼくがいろいろ指摘するわけですが、強い子たちは自分の意見をぶつけてきます。それが立派な考え方だったりして、こちらが勉強になるのです。
そんな院生たちとの楽しい時間を、紹介したいと思います。
(囲碁棋士九段)