岡目八目
(3)恵まれた ぼくの院生時代
(寄稿連載 2014/07/01読売新聞掲載)ぼくの院生修業は名古屋で始まりました。日本棋院中部総本部に行って、先輩の彦坂直人さん(現九段)に毎日のように打ってもらいました。碁も教わって、ご飯もごちそうになって、ずいぶんかわいがってもらいました。
でも、院生同士の対局では思ったような成績を残せませんでした。それが一転したのは、在野の指導者、安永一先生との出会いでした。夏休みに2週間ほど内弟子のようにお世話になったのですが、子ども心に何かのスイッチを入れるきっかけになったのでしょうか。急に勝てるようになったのです。先生には地方にもあちこち連れて行ってもらって、地元の強い方と対局したりするのです。武者修行のような刺激を受けたものでした。
それから、父の仕事の関係で東京に移りました。土日は院生同士で碁を打つのですが、ぼくはずうずうしかったので、自分の碁をすぐ師範に見てもらって、いろいろ教わりました。当時の酒井猛師範とは、今一緒に師範をしているのですが、なんだか不思議な気がします。
平日は勉強する場所があまりありませんでした。現在はいろいろな教室があって、毎日のように通っている院生もいますが、当時は子どもが通うようなところが少なかったのです。東京に移って戸惑いもありましたが、なんとかプロ試験を突破できたのは運もよかったのでしょう。
プロになれば、強くなる機会はいくらでもあります。公式対局はもちろんですが、研究会で強い棋士と接する機会も増えてきます。プロになってからが、本当の才能が開花するのだと思います。
(囲碁棋士九段)