岡目八目
(2)公募小説で作家目指す
(寄稿連載 2018/08/29読売新聞掲載)40歳代は囲碁の普及を中心に、忙しく楽しい時期でした。そういう中で一つのアイデアが浮かんできたのです。
棋士でありながら作家になることができれば、それも囲碁普及のひとつの道になるのではないか、と。
でも作家になる道は、先がなかなか見えません。有名な作家に弟子入りして、掃除洗濯から始める修業をして作家になるのか。売れている雑誌の編集長に頼み込んで、使い走りから記者になり、やがて作家としてデビューするものか。いずれにしても、50歳になろうという棋士が選べる道ではありません。
そんな時期に、折よく、公募による文学賞「時代小説大賞」(現在は終了)が開始されました。
公募小説は公平です。どんなに若くても、かなり年を取っていても、作品を受け付けてくれる。世間の人もそう思ったのか、人気になっていました。
私も初めての小説に挑戦することにしました。関ヶ原の合戦に題材を取った原稿用紙で約500枚という野心作です。結果はあえなく落選。でも、書き終わった後の爽快感が素晴らしかったのです。
同じ頃に「日本ファンタジーノベル大賞」にも応募しました。原稿用紙500枚ほどで、魔法の国のお嬢さんのお話でしたが、こちらも残念ながら落選でした。
この辺りから私も公募の賞を目標として小説を書くようになります。記録を取りながら応募を続けていました。
その時から約30年が経(た)って、記録を見返すと色々なことがわかります。文学賞がそう簡単に取れるものではないということも。
(囲碁引退棋士八段)