岡目八目
(4)碁の強い大名 主人公に
(寄稿連載 2018/09/12読売新聞掲載)江戸時代には碁が強い大名も多くいました。会津藩の名君・保科正之(1611~72)は実力、品格ともに優れていたと思います。二代将軍・徳川秀忠の子として生まれ、後に幕政を支えた人物でした。
囲碁はその棋風に、人柄や性格が表れるといいます。正之の碁はさぞ高尚な気に満たされていることであろう。そう考えて、正之を主人公として「伝えられた心」という小説を書くことにしました。
背景について少し説明しましょう。正之の母・お静(小説ではお志津)は秀忠の側室に迎えられることはありませんでした。正室のお江与(お江)は、三代将軍家光の母で、父は浅井長政、母は織田信長の妹・お市という人物です。秀忠は“恐妻”という説もあるお江与のことを慮(おもんぱか)ったのでしょうか。正之は様々な運命をたどった後に、信濃国高遠(現在の長野県)の保科家の養子となっています。
秀忠とお志津は、大奥での碁の対局で親しくなったという設定です。お志津は無事か、幸松(正之)は元気に育っているだろうか、と案じていた秀忠は、老中の土井利勝の秘策で、棋士の安井算哲を高遠に派遣します。指導碁を打った算哲は、棋譜を暗記して戻ります。秀忠は碁をみて、幸松の品格の素晴らしさを知る、という物語でした。
安井算哲は高遠を訪れ、正之と三子で対局したという逸話があります。
この小説は2011年に「九州さが大衆文学賞」で佳作に選ばれました。作家になって囲碁を普及するという夢は道半ばですが、囲碁の魅力を伝える作品が書けたことには満足しています。
(囲碁引退棋士八段)(おわり)