岡目八目
(1)カメラで追った棋士の魅力
(寄稿連載 2016/10/18読売新聞掲載)◇みやた・ひとし
対局中の囲碁棋士はまさに能の世界。その表情は時に激しく、時に沈静で、深淵な舞いのそれである。その瞬間、写真のポイントは棋士の目と手なのである。棋士が醸し出す人間的な風貌に魅力を感じ、シャッターを押し続けている。
写真と囲碁を始めたのはともに小学6年。大学は写真学科に進み、卒業制作は「老人たち」。一徹で筋の通った市井の人にレンズが向いた。囲碁に熱中していた兄が岩本薫元本因坊に段位免状認定の試験碁を打っていただいたご縁から、ぜひ、撮影したいという思いに駆られた。
その願いは1987年にかない、都内のご自宅にうかがった。穏やかな中にも芯の通った姿に夢中でシャッターを切った。早朝、自宅から駒沢公園まで往復6キロの速歩に、後になり先になり同行撮影もさせていただいた。
呉清源九段には90歳の時、雑誌の企画で取材の機会に恵まれた。調和を目指す碁の素晴らしさについて熱心に語られた。
奥様も話に加わり、息の合ったおふたり。「これは結婚の挨拶に来られた張栩さん、小林泉美さんご夫妻からのお土産のイチゴです。ご一緒にお祝いしてくださいな」と奥様。これは呉九段と、泉美さんの祖父である木谷実九段が育んだ歴史的なイチゴなんだなぁと、ひときわ味わい深く、甘く感じられた。
(写真家)
呉清源師(右)と小林泉美さん(1999年)