岡目八目
(3)山下敬吾少年の悔し涙
(寄稿連載 2016/11/01読売新聞掲載)碁を習い始めてわずか3年足らず。山下敬吾少年は小学生名人となった。同じ北海道旭川市出身の小林光一棋聖が4子局の指導対局をプレゼントした=写真=。負けた敬吾少年の悔し涙が印象的だった。
その後上京し、緑星囲碁学園でプロ修業が始まった。主宰者の菊池康郎さんに、敷居を前にあいさつする少年の所作は実に美しく、感動しながらシャッターを押した。
あの悔し涙から14年、少年は六段、21歳の青年となり、小林光一碁聖に挑戦。
この第25期碁聖戦五番勝負の第1局は熊本で行われ、対局前日、熊本城を散策する山下六段に同行させてもらった。
天守閣には、武将が使ったと思われる碁盤が展示されていた。興味深く見入る山下六段。武者返しの見事な石垣、天守閣から見渡す街の眺めも素晴らしかった。穏やかな山下六段のたたずまいにライカのシャッターを静かに押した。この碁聖戦では第2局を除いて4か所の戦いを記録した。初のビッグタイトル奪取にも神妙な表情であった。
第27期棋聖戦を制し、ついに碁界の頂点に立つ。その就位式会場で「烏鷺燦々 山下新棋聖」写真展を開催させていただいた。また後日、「風姿・山下敬吾新名人・本因坊」写真展も。ご家族連れで来られ、また時を異にしてご両親が寒桜の枝を携えて見に来て下さったのには感激した。
(写真家)
1986年