岡目八目
(4)井山裕太少年の成長 感無量
(寄稿連載 2016/11/08読売新聞掲載)山下敬吾五段と井山裕太小学生名人の3子局指導対局は、日本棋院「幽玄の間」で行われた=写真=。碁盤に手が届かない井山少年は、座布団を3枚重ねた。観戦者は井山少年の最初の師である祖父、鐵文氏。レンズを通して見えた寡黙ながらひょうひょうとした風貌が忘れられない。
プロとして晴れの入段表彰の日、開会を待つ間、小林泉美女流本因坊のサプライズ指導対局での緊張の表情もカメラに収めた。
日本棋院編集部の依頼で本因坊秀策生誕の地、広島県因島へ。記念館、屋敷跡、囲碁ボランティアが観光客をもてなす姿を撮影した。
ふと、思った。秀策が御城碁を打つ場面をとらえた写真があったら――と。とにかく見たい。それが写真というものではないでしょうか。
写真は心を撮(うつ)す記録。少年が大成し、今、碁の奥義を究めんと大ばく進する井山棋聖。静かな穏やかさの中にある誰をも寄せ付けぬ孤高の精神。時の流れのすごさ、素晴らしさを見る思いです。その場に居合わせたことの幸せをかみしめるばかり。
山下五段と井山小学生名人の対局風景も、時がたつほど貴重なものになることだろう。多くの方から得難い話をうかがい、写真を撮らせていただき、大切な記録がたくさん残った。
この宝物をどう伝えていけばいいか。考える昨今である。
(写真家)(おわり)
1997年