岡目八目
(1)父が残した囲碁行脚の日記
(寄稿連載 2015/08/25読売新聞掲載)◇みやざわ・ごろう
昨年の暮れ、郷里の北海道帯広市に住む兄から「珍しいものが見つかった。目を通してほしい」と連絡があり、届いたのはA5判和綴(と)じの小冊子でした。表紙には「昭和五年六月吉祥 諸国愛棋家芳名録 東北地方ノ部」と毛筆でしたためられていました。裏表紙には「歴訪者二段・宮澤四郎」とありました。1930年(昭和5年)から翌年にかけて、父が行った囲碁行脚の日記帳です。
父は長野県の出身で、1890年(明治23年)生まれです。山奥の田舎で、比較的囲碁が盛んな土地柄らしく、25歳で東京に出てきた時には相当な打ち手のようでした。
今でも帯広の実家には1927年11月発行の日本棋院二段の免状があります。当時の段位は現在とは比較にならないほどで、二段といってもプロ並みの棋力だったようです。
我が家は5男3女の8人きょうだいで、末っ子の私が生まれたのは1949年。父はまもなく還暦でした。兄4人は全員が碁を打ち、私は自然に碁を学びました。兄たちは自宅で打つだけでしたが、なぜか私は碁会所に連れていかれ、他流試合を経験させられました。
衣料品関係の仕事をしていた父は1930年6月、「東北を手始めに樺太から中国に渡って一旗揚げて凱旋(がいせん)する」と大言壮語して、囲碁行脚に出発したと聞いています。
(囲碁棋士九段)
対局する四郎さん(左)