岡目八目

水間俊文さん

水間俊文さん

(2)「投了」教えず「整地」をさせない

(寄稿連載 2014/08/19読売新聞掲載)

 囲碁が小学校の正課授業に導入されて、指導要請も増えています。子供たちの成長に囲碁が役立つことが認知されてきたのかなと、うれしく思っています。

 授業では勝つための技術は教えません。囲碁という答えのない世界で、子供たちが自分で解決法を模索していくことが大事だと考えるからです。

 いくつか私なりの方針を持っています。

 ひとつは最後まで打たせる、ということ。囲碁には勝ち目がない場合に自分で負けを認める「投了」という決着のつけ方もあり、潔いと考える方もいるでしょう。でも、「すぐに物事を投げ出す」という悪い癖にもつながりかねません。ですからそもそも「投了」があることを教えないのです。

 もうひとつは「整地」をしない、ということ。終局図のまま自分の地を数え、取った石を数え、その両方を足して自分の得点とします。終局図から石を動かさない方が、自分が何をしてきたのかをしっかり振り返ることができ、地の理解につながるからです。そして、「目で見て数える」という単純な行為が、子供たちには必要だと考えます。

 小学校で指導する以前から、今の子供たちは数の概念が極端に欠落しているのでは、と危惧していました。数字のデジタル化や公式を使って正解を早く求める環境が進んだためでしょう。数字は固定された数字でしかなく、自由に分解したり集合したりできないのです。でも、囲碁で石を取り、地を囲むという行為の結果が、具体的な数になって目に見えてくると、子供たちは喜んで数を数え、理解力を高めていくのです。

(囲碁棋士七段)