岡目八目
(4)囲碁が引き出す豊かな感情
(寄稿連載 2014/09/02読売新聞掲載)「囲碁は頭のいい子供にしかできない」という考えの方がまだ多いかもしれません。でも囲碁は単純なゲームで、だれもができるもの。レベルの差はありますが、それは絵を描いたり歌を歌ったりするのと同じです。その子なりに楽しめる教え方をして、囲碁の授業を皆で共有する。そういう囲碁の存在感を出していきたいと思っています。
勝つことだけを評価するのではなく、一生懸命に取り組んだとか、今までできなかったことができるようになった努力を評価し、子供たちを見守る環境が必要だと思っています。「石を取れたね」、「最後までがんばって打ったね」とほめれば、「先生はちゃんと自分を見てくれている」と安心し喜んでくれます。子供たちの心に素直な喜びが生まれれば、物事に前向きに取り組むようになります。
授業では子供たちにクラス全員と対局してもらうようにしています。いろいろな子がいますが、囲碁を通して対話をし、素直な感情を出せるようになってほしいのです。無表情だった子が、対局しながら笑顔を見せる。こんな変化を目にするときが楽しみで「子供の成長に囲碁が役立ったのかな」と感じるときです。
日本棋院は昨年、小学校の正課授業32校(正課授業以外61校)で指導の実績を残し、今年はさらに増えています。大学も東京大学を皮切りに早稲田、慶応、青山、京都、名古屋など16校で単位を取れる授業が行われています。今年7月には小学校から大学まで対応する学校囲碁推進室を設置し、一層の普及に取り組もうとしています。
(囲碁棋士七段)(おわり)