岡目八目

村上深さん

村上深さん

(1)囲碁が溶け込む風景 夢に

(寄稿連載 2019/03/06読売新聞掲載)

 ◇むらかみ・ふかし

 昨年5月、世界アマチュア囲碁選手権戦に日本代表として参加した。出場してみて実感できたことだが、この緊張感や雰囲気はとても刺激的で、充実感に溢れている。

 日本代表が優勝したのは2006年に遡る。恥ずかしくない戦いをしなければならない、という思いでプロの研究会に参加させてもらったり、ネット碁で月に150局打ったりして自らを鍛え直した。

 大会は4日間で8回戦という長丁場。開幕から4連勝は下馬評通り日本、中国、韓国、台湾の強豪国・地域。私は5回戦で韓国、6回戦で中国に連敗し、優勝争いから脱落してしまった。決して力が通用しないわけではないが、相手は時間の管理も含めて試合巧者。この中韓を押さえて台湾が優勝した。アマの世界も広い、と感じざるを得なかった。

 大会後、中国代表と話をしたら「来日前に政府から大いにハッパをかけられたのに、優勝できずに悲しい」と言う。台湾代表は、大会後に表彰を受けたそうだ。私も強い気持ちで大会に臨んだが、社会的認知も覚悟も違う、と愕然とした。

 19歳まで棋士を目指していたが、夢破れて学業に舵を切った。大学卒業後、富士通で7年間営業として働いたが、30歳の時に脱サラをして、囲碁を生業とすることにした。

 何をしようかと考えた時にふと思い出したのが、友人で医師の飯塚あいさん。元院生でもある彼女は「囲碁の医学的効用」を立証すべく、臨床研究を行っていた。「これだ!」と思った私は、プロジェクトに参加させてもらうことになった。社会に囲碁が溶け込む風景が夢に描けた。

(第39回世界アマ日本代表)