岡目八目

村上深さん

村上深さん

(4)高齢者の健康に役立てば

(寄稿連載 2019/03/27読売新聞掲載)

 アルファ碁が李世乭九段に勝ったことで、棋士は人間としての存在意義を問われることになった。強さを求めることだけでなく、囲碁を通して何をすべきか、ということを否応なしに考えなくてはいけなくなった。これは棋士に限った話ではなく、囲碁界に携わる人すべてが考えなくてはいけないことだ。テーマは、「AI(人工知能)と人の共存」と言っていいだろう。

 私は「囲碁と認知症」プロジェクトにとって囲碁AIの台頭は追い風だと思った。このプロジェクトは、囲碁を用いて脳を活性化し、主に高齢者の健康増進を図ろうという取り組みだ。効果が立証されれば、人が人らしく生きるために知恵を絞らなければならない時代に、囲碁が一つの選択肢になるかもしれない。

 最新の臨床研究では、囲碁未経験の65歳以上の高齢者を「囲碁を覚えない」「インストラクターによる入門教室を集団で受講」「タブレットを活用し、人と接触せずに囲碁入門を個人で行う」という3グループに分け、認知機能への効果を調査した。

 結論としては、効果は対人接触の有無にかかわらず認められたが、集団で実施した方がより大きな効果が得られた。つまり、どのような形であれ囲碁は認知機能に有益である可能性が示されたと言える。特にコミュニケーションツールとしての意義は高いと言えそうだ。

 この臨床研究を取りまとめた飯塚あいさんの論文が、国際学術誌に採択された。専門家の目で見て認められたということだ。これからは事業化を推し進めていきたい。高齢者の健康に、囲碁が寄り添えば幸いだ。

(第39回世界アマ日本代表)(おわり)