岡目八目

村上深さん

村上深さん

(3)脱サラ 囲碁界で生きる決意

(寄稿連載 2019/03/20読売新聞掲載)

 とりあえず大学には入ったものの、囲碁の世界しか知らない。しかし、これまでと違うことが1点だけあった。純粋に囲碁が楽しい。気の置けない友人もでき、インターカレッジの囲碁サークルを立ち上げたりもした。いつの間にか忘れていた「楽しむ」感覚を取り戻したということだろう。

 大学3年生になり、いよいよ就職について真剣に考えなければならない。まずはサラリーマンというものになってみよう、と決心した。私の両親は町の写真屋で、つまり自営業の家庭に育った。今を逃すと一生勤め人の気持ちを知るチャンスはないかもしれない。

 就職活動の時も囲碁は役に立った。国際戦のスポンサーもしており、囲碁に理解のあった富士通に営業として入社できた。

 ふたを開けてみると、思いのほか仕事は大変だった。富士通の商品は多岐にわたるから、仕事を覚えるのも一苦労だった。やや内向的な性格なので、営業には不向きだったかもしれない。囲碁で培った「負けん気」でなんとか仕事をこなしたが、忙しさにかまけて心をなくしていた時期もあった。それでも、人の気持ちはそれなりに分かるようになった。

 気が付けば30歳になっていた。営業としての伸びしろに限界を感じていた。そんな時、囲碁の大会で惨敗したことがきっかけで自分の囲碁人生をこれからどう過ごすか、ということを深く考えることになった。

 「囲碁と認知症」プロジェクトをあてに脱サラをしたが、直後に囲碁界に衝撃が走る。アルファ碁の出現だ。偶然だろうが、人ならぬ何かが私の決断を応援してくれたと思った。

(第39回世界アマ日本代表)