岡目八目
(4)世界も注目 囲碁文化を後世に
(寄稿連載 2014/11/04読売新聞掲載)伝統文化には本来の楽しみ方とは別に、歴史の歩みが魅力としてあります。
囲碁に関していえば、本来の楽しみ方は盤上の勝負にありますが、囲碁文化は、はるか昔の起源から日本への伝来、江戸時代の流行、現代の隆盛へと長い道のりがあります。私が囲碁文化に関心を持ち始めたのは二十代の終わりでした。単純に仕事にも役立つとの思いでしたが、歴史の歩みの面白さに私はのめり込んでしまったのです。
日本棋院で月刊誌「囲碁未来」の編集をしていた時、囲碁文化に関係する美術資料などを紹介するコーナー「未来博物館」を3年近く担当しました。
その際、心がけたことがあります。それは、資料の元を見てから臨むことでした。例えば、歌舞伎の舞台衣装の時は目的の演目を観(み)てからとしました。囲碁の和歌を残した平安期の歌僧、西行を紹介した時は、西行が歌を詠んだ地を実際に訪れました。当たり前のようですが、こうしないと実情が伝わりません。
在職中に日本棋院が創立80周年を迎え、「囲碁殿堂資料館」を開設することになったのは感慨深いことでした。資料館が完成したことによって日本棋院の受け入れ体制が整い、全国にある貴重な囲碁資料が行き場のないまま散逸してしまうおそれが少なくなったと思います。
今日、囲碁は盤上の遊戯としてだけでなく、経営戦略や生涯学習としても国際社会の注目を集めるようになっています。囲碁文化を後世にしっかりと伝えていくことは、私たちの大事な役目であると考えます。
(囲碁美術研究家)(おわり)