岡目八目

永代和盛さん

永代和盛さん

(3)社会性身につける集団生活

(寄稿連載 2007/01/29読売新聞掲載)

 私はプロ棋士を目指して11歳で上京し、当時、千葉県の幕張にあった日本棋院の寮に入りました。院生1位になったこともあったのですが本番で結果が出せず、19歳の試験で入段を果たせなかったときに、きっぱりとプロ入りを断念しました。「十代でなれなければあきらめよう」と決めていたからです。

 私は切り替えが早く、決めたことは行動するタイプです。プロになりたいと思えば一生懸命勉強しますし、辞めることも相当考えて出した結論なので、未練なくけじめをつけることができました。「こんどは普及でがんばろう。自分にできることをやろう」と決心することができたのです。

 「棋士養成道場/永代塾」には、現在3人のプロを目指す子供たちが住み込みで修行をしています。プロになるために環境がどれほど大切かは、私自身の体験から学んだことです。

 集団生活の中では、仲間の刺激を受けます。甘えがなくなり、精神的にも強くなります。そして、礼儀や社会性を身につけることができます。私は礼儀・社会性を一番重んじていて、「大きな声で明るくあいさつをする」「年上の人にはもちろん、年下の人にも自分からあいさつをする」「目上の人を尊敬し、年下の面倒をみる」といったことは徹底しています。プロになってからも、社会性がなければ研究会にも参加できません。

 勉強法は、基本的には自主性に任せており、私は各自の棋風と実力にあったアドバイスを与えることがもっぱらです。もう一つは、心構えを教えること。言い換えると、自信をつけさせることです。もちろん、実力をつけるのが一番ですが、自信がなければ勝つことはできません。自信は、「人より勉強すること」からつくものだと思っています。

 もし、子供たちがプロになれなかったとしても、「道場」で学んだことは有意義であると思います。囲碁に一生懸命取り組むことができる子供は、この後、何をしても一生懸命になれるからです。

(永代塾塾長)