岡目八目

大淵盛人さん

大淵盛人さん

(1)「内弟子」で人材育成、中韓に対抗

(寄稿連載 2006/06/05読売新聞掲載)

 今年4月、日本棋院から5人の新初段がプロとしてのスタートをきりました。私の内弟子も、おかげさまで、3人がプロ入りを果たすことができました。3人は同じ学年ということもあり、ライバル意識がよく作用したようです。ただ、弟子たちはそれぞれ、今年にかける特別な思いを持っていました。そのことが、たまたま3人同時入段という結果につながったのだと思っています。そしてもう一つ、彼らが短い期間でプロ入りを果たせたのは、「内弟子」として修業したからに他なりません。

 今回は、私が内弟子をとろうと考えたいきさつについてお話しいたします。

 私自身、大枝雄介九段の下で中学を卒業してから8年間、内弟子生活を過ごした経験を持っています。囲碁のプロを目指す者としては遅い出発でしたが、にもかかわらず、大枝九段は私をとってくださいました。師匠に直接恩返しはできませんが、囲碁界に恩返しをしたい。この気持ちが、内弟子をとりたいと考え始めた第1の理由です。

 第2の理由は、日本囲碁界の将来への危機感でした。10年ほど前から、国際戦で、日本は韓国、中国になかなか勝てなくなりました。私自身は国際戦の舞台で戦えなくても、黙って見ているわけにはまいりません。継続でき、地に足のついた形で日本囲碁界の役に立てないだろうかと考えたとき、しっかりとした若い人材を育てることが大事であろうと思い至りました。

 中国では、国をあげて、若く優秀な人材を中央に集めて指導にあたっています。韓国ではソウルに1000近くの子供教室があるほか、棋士が指導するプロを目指す道場が3か所あり、互いに磨き合って相乗効果を生みながら、質のよい教育を実現しているように思います。

 このような列強と対抗するためには、かつて木谷實先生が優秀な弟子たちを囲碁界に送り出したように、「内弟子」で精神的に鍛えられた人間を育てるしかないと考えたのです。

(囲碁棋士九段)